1月29日に新宿はバルト9にて、劇場版アニメ「ガラスの花と壊す世界」スタッフ生コメンタリー上映会なるものが開かれましたので、行って参りました。
元々「ガラスの花と壊す世界」は、正月にあった「新世界より」一挙ニコニコ生放送の中でバンバンCMが流れていて興味を持っており、カントク先生の可愛らしいキャラデと、「人を選ぶけど面白い」というツイッター上での評判に惹かれて見に行ってきました。
が、初回視聴では設定やストーリーなど「???」な部分も結構あり、スタッフの生解説を聞きつつもう一回見れるなら丁度いい!ということで、スタッフコメンタリー上映会に参加してくることにしました。
(特に監督の石浜氏には色々と思うところもあって、一度生で見てみたかったというのもありますが)
早速レポに入っていきます。
(言うまでも無く、
ネタバレ全開ですので、未視聴者は引き返してください)
今回の登壇者は以下の4名。
石浜真史(監督)
横山克(音楽)
加藤淳(A-1 Picturesアニメーションプロデューサー)
石原良一(ポニーキャニオン プロデューサー)ポニキャンの石原Pがメイン司会で進めていく流れでした。
まず上映の前にそれぞれ挨拶&会場のみんなはコメンタリーでどんなことを聞きたい?と聞く流れ。
Q:音楽のことを聞きたい人? →ちらほら
Q:世界観や設定のことを聞きたい人? →多数
Q:
お金回りのことを聞きたい人? →会場から笑いが起こりつつもそこそこいる、音楽よりも多い……?
まあ、世界観のことを中心に、ところどころ音楽を交えつつということで行きますかね~ということで本編スタート。
以下、シーンごとに印象に残ったコメントなどを箇条書きで書いていきます。基本的に石原Pが質問→メインで答えてたのは石浜監督という流れなので、特記のない時は監督のコメント。のはず。
自分の記憶もあやふやで、手元にパンフレット等も無いので、微妙にシーン順になってないところもあるかも。
【冒頭、ピアノが出てくるシーン】メインテーマのピアノ曲は、コンクールの課題曲という設定なので、「難しいんだけれども弾こうと思えば誰でも弾ける」難易度になるよう気を使った。(横山さん)
【デュアルにコンクール金賞を報告するスミレ】・このシーンの聖地は
多摩パルテノン。EDにも協賛でクレジットされている。
・ウイルスに侵食されるところの演出はもっとグロくしても良かったのだが控えめに。
【世界が崩壊するところのきのこ雲演出】このシーン、きのこ雲が一瞬止まる演出は、データ世界の出来事であることを強調する演出として採用した(監督の発案ではない)
【知識の箱に戻ってきたデュアル】知識の箱の背景は背景さん泣かせ。通常、ピントに頼らずいかに遠近感を表現するのかが背景さんの腕の見せ所なのだが、この背景はほとんど遠近感が分からず完全にピントだけで遠近感を見せている。
【ウイルスとの戦い】デュアルとドロシーが攻撃時に一瞬「見合う」シーンは、アンチウイルスソフト同士の
「デッドロック」をイメージしている。
(現実のアンチウイルスソフトでも、2種類を同時にインストールした時に変な動作をしないよう、お互いの機能が止まるという挙動をする。それをイメージしている)
【リモとの出会い】リモの回りに芝生が出現しているが、これは
リモが来たことによって初めて出現し始めたもの。背景でだんだん出来上がりつつある家も同じ。
【カフェに行くデュアルとリモ】ここの聖地は○○のカフェ。(地名聞き取れず……三鷹?)
オープンカフェを使いたかったのだが、1階ではなく2階のテラスがオープンになっているカフェをわざわざ探した。なぜなら1階だと背景の車の通行とかを描かなくてはならなくて
作画カロリーが高いから。
本当は背景でバックアップ世界の人々の生活とかを見せたかったんだけれど。
【東京の街を見下ろすシーン】・このシーン、貿易センタービルの屋上から見下ろしている。
・ポニーキャニオンのビルも見えるはずなんですよ……でかでかとロゴとかを入れてもらえば良かった(石原P)
→
演出的にはダサいのでNGですね、とバッサリ切り捨てる監督(笑)
【料理をするリモ】・デュアルとドロシーが寝る(アップデートパッチが当たる)たびに服は変わっているという設定。作中的には3パターン用意している。
・ドロシーは最初から感情豊かにも見えるが、人間と同じ意味でのいわゆる「感情」は無いという点は、デュアルと変わらない。
・この時のデュアルは凄く前向きで、色んなことに挑戦してみようと積極的になっている状態。そう見えるよう演出した。リモの方はお母さんっぽく見えるよう演出した。
【ピアノを弾くリモ】・デュアルから「この歌知ってる?」と聞かれて一瞬リモの目が光るのは、
本来の検索エンジンとしての機能を発揮しているシチュエーションだから。
・ピアノの曲を聴いて、デュアルは泣きそうになった訳ではない。この時点では、まだ自分の中で何が起こっているのか分かっておらず、表現する術がない状態。
【キャラソンパート①】花守さんは凄く歌える人だ、というのは事前に聞いていたので、「歌える人向けの曲」を作った。結果的にも完璧に歌いこなしてくれた(横山さん)
【キャラソンとキャラソンの間】・これはあれですね、いわゆる
「ガルパンはいいぞ」ってやつですね(石原P)→会場爆笑
・曲は次のキャラソンにうまく繋げられるよう、気を使った(横山さん)
【キャラソンパート②】・佐倉さんには、「佐倉さんの素っぽく歌ってください」とオーダーしたが、佐倉さんは「
私キャラでしか歌ったこと無い……私の素ってなんだろう??」としきりに悩んでいた。
・知識の箱の時間の流れは人間界と違うので、バックアップデータ巡りの旅に何年かかっているのかは一概には言えないが、デュアルとドロシーは体感的には5~6年くらいの情報を受け取っている。
・雄大な大自然の背景は一つ一つ手書き。大変だったとのこと。
【再度、ウイルスとの戦い】・ウィルスのデザインは植物をイメージしている。
・一方のデュアル&ドロシーの武器はペンをイメージ。監督の発案ではなくカントクさんの発案だが、
ペン=楽譜を書く道具なので物凄く「ハマッた」感がある。
【ウイルスにやられかける3人】ウイルスを蹴散らした謎の光は、マザーがリモに入れていた防衛プログラム(?)が作動したもの。
【失神→マザーのリモートプログラムとして目覚めるリモ】・デュアルがたどたどしく一本指で弾くピアノは実際に横山さんにやってもらった。うまい人に敢えて下手に弾いてもらうのでかえって難しそうだった。
・
ここで初めてこの世界に夜が訪れた。それまでは昼も夜もない世界だったが、リモが気絶したことで初めて夜がやってきた。本当は驚くべきことだけど、デュアルとドロシーは何が当たり前で何が変なことなのかも分からないので、普通に受け入れており特に反応もしない。
・再覚醒したリモの額に出るマークは、マザーのロゴマーク。冒頭の解説パートでも一瞬登場している。
【逃げ出すリモ】・ここの地下通路っぽい場所はロンドンのカタコンベをイメージした。
・ここでデュアル・ドロシーは一度プログラムとしては壊れかけたが、
第0階層と呼ばれるところ(ドーム状の空間)に転送されることで助かった。
【第0階層】マザーモードのリモと普段のリモの演じ分けは難しいはずなのだが、花守さんは易々演じていた。
【マザーリモによる解説と回想】・ダイアナはリモーネの死以前からマザーを作っていた。が、開発の最終段階でリモの死という出来事が起こった事で、邪心が紛れ込み、このような結果になった。
・リモーネがどういう死に方をしたのかは敢えて設定していない。ただただ環境保全運動の中で死んだという事実が重要。
・人類最後の生き残り科学者3人は、47歳くらいのリーダー、45歳くらいのベテラン、24歳くらいの新人というイメージ。
→男ばっかりですし
ほぼ無理(意味深)ですね……(石原P)
→まあそこは
色々と好みもありますから(さらに意味深)。
・自分の中では、生き残り3人は地上にいるのではなく宇宙空間のコロニー的なところにいるという設定。地上と大気の組成が違うので、炎の色も違う演出にした。科学的には正しくないのだろうけど。
・「きれいなもの」であるガラスの花は、
全て手描きしている。「完全な人間を作る」という説明シーンのところだけCG。
【第0階層の戦い】・ここでウイルスが侵入してきたのは、本当にたまたま。
・ウイルスのデザインは、途方も無い巨大感を表すために
「上も下もないビル」というコンセプトでデザインした。
・画面が紫色になるのは、ヴァイオスの力が満ちているという演出。
・ウイルスと対峙するときにフラッシュバックするドロシーの「家族」。彼らがここで目隠し状態なのは、単に自分が目隠し好きだから。
・デュアルとドロシーがダウングレードした際の服は、シンプルにというカントクさんへのオーダーでこのようなデザインに。
【強制フォーマットと消えるリモ】・(回想シーンっぽい感じのところで)登場するスミレは本人ではなくヴァイオス。
・幼少リモーネのシーンで登場する楽譜は、実際に横山さんに書いてもらった。
→何十年ぶりかに楽譜を手書きしたので緊張しました。(横山さん)
・マザーが恐れた「ヒューリスティックエンジン」というのは、実際にアンチウイルスソフトの開発などに使われている。経験則とか試行錯誤で問題解決を図るという、人間っぽい挙動をするエンジンのこと。
・リモが消える時の光の粒が立ち上る演出は、ウイルスが消えるときの演出と同じにしている。つまり、ウイルスと同じで消えているのではなく、
どこかにリモのデータがプールされているかもしれない……という希望を残すEND。
【スタッフロール】・スタッフロール、背景が真っ黒で映像無しなのは「大人の事情」。(そこまで労力がかけられなかった)
→本編の映像使いまわしで行く手もあると思いますけど(石原P)
→そこは敢えて潔く真っ黒で行くことにした(笑)
・ED曲(ピアノのメインテーマ曲)は、劇伴としても成立しつつ、歌モノとしても成立させなければいけないので、かなり苦労した。(横山さん)
……と、本編コメンタリーはこんな感じでした。
元々「ガラスの花と壊す世界」は濃密な作品ですが、そこにさらに濃密なスタッフ解説がプラスされて、とても短い60分に感じました。
最後は、会場からの質疑応答。
ほぼ考察ガチ勢の答え合わせタイムと化しており、しかも概ね当たっていたのが凄い。
正直自分では理解が追いついていないところもあるのですが、理解できたところだけでも抜粋して書いておきます。
【質疑応答パート】Q:冒頭でリモが摘んでいた花=スミレのデータで、それを最後のリモが消えるシーンでデュアルに返したという解釈で合ってますか?
A:合ってます。自分としてはそのつもりで描いた。
Q:デュアル達の武器がペンなのは、「楽譜を書く」=「デュアル達はまた世界を作り直せる」という風に解釈した知り合いがいたのですが、監督的にはどうでしょう?
A:そこまでは考えていなかった。でも素敵な解釈ですね、正直採用したいくらい。
Q:マザーの目的は「完全な人間」を作ることですが、人間を一人残らず滅亡させてしまってはもうその目的は果たせないのでは?
A:その通り。もはや目的を果たせない中、リモだけがマザーの最後の命令に従い「きれいなもの集め」をしているという可哀そうな状態になっています。
Q:
ドロシーの腋が強調されているように感じましたが、やはりこだわりがあったのですか?
A:どちらかというと作画スタッフさんのこだわりですね。特に女性スタッフのこだわり。男性スタッフは女性の体を描くのに照れがあるというか、ファンタジーが入ってしまうけど、女性が描くと結構生々しくなります。
Q:今回の作品、絵コンテが出来てから曲を当てていくという作曲法をされたそうですが、どういう部分が難しかったですか?
A:暗算ミスが最大の敵でした。「ここは何フレームだから何秒、次は何フレームだから何秒で……」と計算して曲を当てていくのですが、途中で計算をミスって「何秒足りない!」というのが頻発しました。そこでテンポを変えたり、何拍か入れたりして調整するのですが、それが逆にうまい方向に働くこともあって、意外と悪くないなとも思いましたね。(横山さん)
Q:60分は結構短く感じましたが、どのような理由でこの尺が決まったのでしょうか?
A:そこはもう大人の事情的なやつですね……。尺を伸ばせば伸ばすほどコストもかかるので……。
尺が短い分、余計なものは削ぎ落として、メインテーマであるデュアルとドロシーの成長にスポットを当てて、世界観の解説とかは最低限に、ということになりました。(加藤P)
Q:最後にデュアルとドロシーが流した涙は、元々プログラムされていたものなのですか?それとも二人の成長の証ですか?
A:
成長の証と取って頂いてかまわないと思います。涙はアンチウイルスソフトに不要なものなので、プログラムはされていません。
……と以上のような感じでした。
私自身、コメンタリー付き上映に行くのは初めてだったのですが、実際にその映画を作った人たちの解説付きで映画を見れるというのはとても貴重な体験でした。
「ガラスの花と壊す世界」はかなり濃密な作品でもあり、今回の上映でも完全に理解するにはほど遠い状態ではあるものの、自分の中では大分理解が進んだ感があります。
どんなアニメ作品でもスタッフの拘りと言うのは必ずあるはずで、それが世の中に知られずに埋もれていくのはもったいないので、「ガラこわ」に限らずこういう試みはどんどん行われて欲しいですね。
今回メインで話されていた監督の石浜氏ですが、非常に優しい語り口で真摯に作品と向かい合っている思いが感じられて好感が持てました。
最後の挨拶で、「今回は監督としての「答え」を求めてる方が多いと思われるので、詳細に自分の考えなどをお話しましたが、あくまでも自分ひとりの考えに過ぎません。本来は解釈は自由で、それぞれの感じたものが正解です。」と言われていたのがとても印象的でした。
私が石浜監督のことを知ったのは、監督の前作である「新世界より」のアニメ化に際してでした。
私はこれの原作小説の信者と言っていいくらい大好きだったのですが、アニメ化としては一部残念なところもあり、「もっと面白くできたはずでは……」という思いと言うか、大袈裟に言うと恨みみたいなものは正直ありました。
ただ時間も経って自分もアニメ版を冷静な目で評価できるようになってきたこと、今回の「ガラスの花と壊す世界」も良い作品だったこともあり、今回のスタッフコメンタリー終了後には、石浜監督を応援して行きたい、と思えるようになりました。
新世界よりはあれや、やたらビジュアル化の難しい小説を書きたがる原作者のエロゲヲタが悪いんや……(謎の手のひら返し)と冗談はさておき、「ガラこわ」、スタッフコメンタリーを聞いてもなお理解しつくせないほどに濃密で面白い作品ですので、1回しか行かれていない方は是非2回目、3回目の視聴に行って見ると、面白い経験ができると思います。
以上、レポでした。
おまけ:会場で見つけたものなど
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